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QualiArtsengineer blog

モバイルゲーム開発の現場におけるテクニカルアーティスト

モバイルゲーム開発の現場におけるテクニカルアーティスト

7 min read

はじめに

株式会社QualiArtsでUnityエンジニアをしている住田です。Unityのプロジェクトにてクライアントリードエンジニアをしており、並行して「CA.unity」や「技術書典」といった会社を跨いだ横軸活動の牽引などもしております。 本記事はQualiArts Advent Calendar 2023の1日目の記事です。 今年もQualiArtsのエンジニアがUnity、Golang、組織などのさまざまな記事を毎日投稿しますので、ぜひチェックしてみてください。

さて、ゲーム・CG業界のお話を聞いていると「テクニカルアーティスト(以下、TAと省略)」という役職を表す単語をしばしば聞きます。 TAという役職は、その名の通りクリエイティブな表現に対して技術的なアプローチを行う人のことです。 将来的にはTAという役職を目指したいが、具体的にどういった業務を実行しているかは知らない方も多いのではないでしょうか。 そんなTAについて、QualiArtsで活躍されている方の仕事を少しご紹介します。

テクニカルアーティスト室

まず、QualiArtsには複数のプロジェクトが存在しています。エンジニアはそれぞれのプロジェクトに所属し、そこで必要な開発業務を担当しています。 それに対し、TAはプロジェクトに所属しておりません。「テクニカルアーティスト室(以下、TA室)」という専門の部門を設け、複数のプロジェクトに対して横断的に携わっています。

TA室の構成

現在このTA室には6名が所属しています。若手から長年QualiArtsの表現を支えてくれているメンバーまでさまざまな年次で構成されています。 それぞれのプロジェクトの表現技法は、TA室によって基盤として蓄積され、また次のプロジェクトへ還元されていくといった形をとっているのも強みのひとつです。

描画基盤

QualiArtsのゲームは主にUnityで開発を行なっています。その描画機能をフルに活用してさまざまな表現を実現すべく、プロジェクト共通で使えるUnity用の描画基盤をTA室で横断して開発しています。 ライティング、シェーディング、エフェクト、大量のオブジェクトの描画、透過表現、反射表現、などなど、高度な表現がモバイル端末上で実現できるようになっています。 「IDOLY PRIDE」のライブ機能におけるさまざまな表現はこの描画基盤の賜物です。さまざまな描画表現についてはぜひライブ機能を確認してその目で確かめてみてください。

最近のUnityではHDRPやURPといったScriptableRenderPipelineと呼ばれる新しい描画パイプラインの話を聞くようになってきました。 QualiArtsの描画基盤はURPをベースにした独自のScriptableRenderPipelineを構築しています。

常に最新の機能に追従し、新しい表現ができるように日々開発が進められています。

過去のCA.unityにて、弊社TA室の渡邊より、「IDOLY PRIDE」における描画の技術的な紹介をしています。 Unity Learning Materialsならびに本ブログにて公開されていますので、ぜひ興味のある方はご覧ください。

「IDOLY PRIDE」における描画最適化術(Unity Learning Materials)

「IDOLY PRIDE」における描画最適化術(QualiArts Blog)

キャラクター制御

キャラクターが生き生きと動き、感情を表現するためには、3Dモデルの視覚的な魅力だけではなく、キャラクターの制御が重要です。 キャラクターの表情や骨格を適切に動かす必要があります。そのために、表情を伝えるためのフェイシャル制御、身振りを伝えるためのモーション制御が重要になります。 その機構や制作フローについても、TAが整備をおこなっています。

フェイシャルについては、内製のフェイシャルツールを用いてデザイナーが作成しています。このツールはTAがDCCツール上に実装しています。 デザイナーの要望を聞きつつ、幅広い表情が実現できるように日々進化を続けています。

内製のフェイシャルツール

モーションについてですが、QualiArtsではモーションキャプチャーを利用した制作を行なっています。 「IDOLY PRIDE」では千を超えるモーションがありますが、これらがモーションキャプチャーによって収録され、その後調整を経てリリースされています。

それらのモーションをUnity上で適切に再生し、より魅力を引き出すのもTAの役割です。衣装の揺れや、ある骨に連動して自動的に他の骨を動かすことで形状の破綻を防ぐ補助骨と呼ばれる仕組みづくりにも取り組んでいます。

骨の仕組み

このように、キャラクターが生き生きと動いている裏側にはTAの多くの工夫が隠れているのです。

MayaやPhotoshopなどのツール拡張

デザイナーが作業をする上で、Maya、Photoshop、Unityなどさまざまなツールを使用します。 そういった作業の中で、ツールを拡張し、デザイナーの作業を効率化するのもTAの仕事です。

DCCツールでよく使う一連の操作をまとめて効率化したり、プロジェクトの形式に沿った最適化機能を用意したり、デザイナーが難しい作業をサポートするGUIを用意したりとさまざまな需要があります。 IDOLY PRIDE 3D制作の取り組みで紹介されているMayaのバリデーターとエクスポーターもそのひとつです。

Mayaのバリデーターとエクスポーター

ツール拡張の例として、Photoshopの拡張の紹介を弊社TA室の久保より本ブログで紹介しておりますので、ぜひ興味のある方はご覧ください。

Photoshop Extension 開発におけるデバッグ効率化対策

TAでこのツール拡張を担当するエンジニアは、幅広いツールの知識が求められます。 ツールごとに拡張機能の開発に必要なライブラリやプログラミング言語、導入方法などが異なるため、臨機応変な対応が必要です。 こういったさまざまなツールの知識をもとに、デザイナーの支援をするのもTAの重要な役割になっています。

アセットの格納フローの整備

デザイナーが制作したアセットは適切に管理する必要があります。 QualiArtsでは、アセットのバージョン管理にSubversionやUnityVCSを活用しています。そこにデザイナーが納品する過程で、当然それらのツールを操作する必要が出てきます。 そこで、バージョン管理ツールならではのトラブルに対してサポートを行なったり、DCCツール上で納品処理を効率化する拡張を施したりといったお仕事もTAが担当します。 そういった業務の一環として、弊社TA室の見原よりブログに2点ほど記事がありますので、よければこちらもご覧ください。

PlasticSCM(Unity Version Control)でUnityアセットをバージョン管理する

PlasticSCM(Unity Version Control)管理の3DモデルをMaya上で手軽に差分比較する

また、デザイナーが制作したものは、当然プロジェクトが使えるような形式に落とし込む必要があります。 たとえばUnityであれば納品されたアセットに対してアセットバンドルとしてビルドするといった工程です。 この工程においても、デザイナーの納品したアセットと納品先のプロジェクトの開発都合を照らし合わせて、フローを整備します。 プロジェクトのエンジニアと協力し、アセットバンドルをビルドするCIフローを構築などの作業を行います。

このように、デザイナーが作成したものをプロジェクトで使うまでの工程に責任を持つのもTAの役割です。

ADV基盤

キャラクターの魅力を伝えるのに重要なのが、キャラクターの物語を映像とテキストで表現するストーリー機能です。 QualiArtsではこれを「ADV(アドベンチャー)機能」と呼んでいます。

IDOLY PRIDEのADV機能

ADV機能に求められるのは、シナリオに必要な場面を表現する機能、そしてスクリプターがシナリオをもとに適切にデータを量産できるエディターとしての機能です。 QualiArtsでは「Uguiss(ウグイス)」という入力をGUIで行うことのできる汎用的なスクリプトエンジンを開発しており、これを活用してADVを実現しています。 スクリプターがテキストの表示、モデルの表示、モーションの再生、カメラの制御などの「コマンド」を入力すると、エンジン上でこれらが再生されるといった仕組みになっています。 このコマンドの種類や中身はプロジェクトごとに実装を行うような拡張性の高い作りになっていますが、GUIや操作感は基本的に共通なので、スクリプターとしてはプロジェクトが変わっても同じ感覚で制作が行えるというのも一つの特徴です。 Uguissの開発とADVの開発はともにTA室に所属するエンジニアが開発しており、日々スクリプターとコミュニケーションを取りながら改善を行っています。

Uguiss

Uguissはその機能性の高さから、QualiArtsだけではなく、株式会社サイバーエージェントのゲーム・エンターテイメント事業部である「SGE」の中でも多く導入されています。 Uguissについては、SYNC2022にてADVを担当する山城より「IDOLY PRIDE」での技法を紹介しました。 こちらのアーカイブはUnity Learning Materialsにて公開されていますので、ぜひ興味のある方はご覧ください。

「IDOLY PRIDE」における動画のようなADVの実現方法

おわりに

会社によっていろいろな役割を持つTAですが、弊社ではUnity、DCCツール、バージョン管理ツール、CIなどなど、多岐にわたる分野の仕事をしています。 どれも専門性の高い欠かせない役職で、QualiArtsのアセットを世の中にお届けするために日々、TAが活躍しているのです。 本記事が少しでもTAという役職の理解につながれば幸いです。

2018年にサイバーエージェントに新卒入社。その後、QualiArtsにて新規プロジェクトのUnityエンジニアとして開発に携わる。現在は、運用プロジェクトのUnityリードエンジニアとして従事。ゲーム・エンターテイメント事業部(SGE)全体のUnityの技術促進を目的とする横軸組織「Unityコミュニティ」の責任者としても活動している。