QualiArtsのエンジニア組織におけるAI活用推進の取り組み

QualiArtsのエンジニア組織におけるAI活用推進の取り組み

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QualiArtsのエンジニア組織におけるAI活用推進の取り組み

はじめに

株式会社QualiArtsでUnityエンジニアをしている住田です。 Unityのプロジェクトに従事しながら、技術広報や横軸活動の牽引を務めております。

本記事はQualiArts Advent Calendar 2025の1日目の記事です。 今年もQualiArtsのエンジニアがUnity、バックエンド、インフラ、AIなどのさまざまな記事を毎日投稿しますので、ぜひチェックしてみてください。

近年、Claude CodeやGitHub Copilotなどのコーディングエージェントが急速に普及し、多くのエンジニアが個人レベルでAIを活用するようになりました。しかし、個人での活用が進む一方で、組織全体としての効果を最大化するには、体系的な取り組みが必要です。

本記事では、QualiArtsで実施している4つのAI推進施策について紹介します。コーディングエージェントの導入促進、共有リポジトリの構築、横断組織の立ち上げ、そしてセキュリティの整備といった取り組みを通じて、エンジニアが安心してAIを活用できる環境づくりの取り組みを紹介します。

QualiArtsにおけるAI活用の背景

QualiArtsでも、多くのエンジニアが開発にAIツールを活用し始めています。Claude Codeを使ったコーディングの効率化や、Cursorのcomposerを活用した問題調査など、個人レベルでの活用は着実に進んでいます。

しかし、個人での活用が進む一方で、いくつかの課題も見えてきました。使い方や活用レベルにばらつきがあり、効果的なノウハウが共有されないまま各自で試行錯誤している状況がありました。また、AIがSlackやリポジトリの情報を読み取る時代になり、これまで以上にSlackやコード上でのトークン管理など、セキュリティへの配慮が必要になってきました。

こうした状況を踏まえ、親会社となるサイバーエージェントがAI推進を進めるタイミングに合わせて、QualiArtsでも技術ボードによる戦略決定をもとにAI推進を進めようという流れが形成されました。

コーディングエージェントの推進

QualiArtsでは、Claude CodeやCursorを中心としたコーディングエージェントの活用を推進しています。全体的なコーディングから技術課題の解決まで幅広く活用しており、エンジニアの個人の裁量でCodexなど別のエージェントも使用していますが、主に開発に用いているのはClaude CodeやCursorが多いです。

コーディングエージェントの活用を広げるため、既にAI活用が進んでいるプロジェクトが主体となり、いくつかの施策を展開しました。AIエージェントの活用例を共有する会を開催し、実際の開発現場での使い方やノウハウを紹介しています。 また、プロジェクトの開発中に直面した課題を解決するエージェントの実装事例を共有したり、AIエージェントに関する雑談や質問を気軽にできるSlackチャンネルを作成したりと、エンジニア同士が知見を交換しやすい環境を整えています。

さらに、AI活用を進めているプロジェクトや個人の設定ファイルを社内で共有することで、他のエンジニアがすぐに試せるようにしたり、チーム内でAIエージェントを活用する文脈でのペアプログラミングを行うなど、実践を通じた学びの機会を創出する取り組みも行われています。

こうした取り組みを通して、たとえばSDD(Specification Driven Development)による開発フローが広まって機能開発のAIツールの使い方の習熟度が上がったり、高度な技術や調査工程を要する課題解決がAIエージェントの活用によって、専門性のない分野でもエンジニアが力を発揮できるようになりました。

共有リポジトリの構築

個人での活用が進む中で、内製のMCPサーバーやClaude Codeのカスタムコマンドといったツールが、各エンジニアによって独自に開発されていました。こうしたノウハウを共有し、AI活用をさらに加速させるため、社内での共有リポジトリを構築しました。

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MCPサーバーとカスタムコマンドとは

MCPサーバー(Model Context Protocol Server)とは、Claude CodeなどのAIエージェントが外部のツールやサービスと連携するための仕組みです。例えば、開発フローで利用するWrikeやConfluenceといったツールのMCPサーバーを作成することで、AIエージェントがこれらのサービスから情報を取得したり、操作を行ったりできるようになります。

また、カスタムコマンドは、Claude Codeで頻繁に使う操作をスラッシュコマンドとして登録する機能です。プロジェクト固有のレビュー基準や開発ルールをコマンド化することで、チーム全体で統一した品質を保ちながら効率的に開発を進められます。

共有リポジトリの運用

共有リポジトリでは、READMEを充実させて導入手順を明確にしたり、具体的な利用ケースを説明することで、他のエンジニアが試しやすい環境を整えています。また、社内のAI活用に関する雑談を行うSlackチャンネルで共有リポジトリの更新を告知し、気軽に質問できる場を提供しています。

共有による効果

共有リポジトリの構築により、エンジニア間でMCPサーバーの認知が広がり、開発フローでの効率化が促進されました。特に印象的だったのは、Unityクライアントエンジニアとバックエンドエンジニアが、普段は交わらない技術的な専門範囲の垣根を超えて技術共有を行えたことです。異なる専門性を持つエンジニア同士が、AIツールを通じて知見を交換し合う文化が生まれつつあります。

AI活用横断組織の立ち上げ

AI活用をさらに推進するため、QualiArtsでは直近、プロジェクト横断でAI活用を推進する組織を立ち上げました。この組織の主な目的は、各プロジェクトにおけるAI活用の地盤を組織的に提供することです。

組織の構成と役割

横断組織のメンバーは、各プロジェクトの中でもAI活用に積極的なエンジニアを抜擢しています。単に自身のプロジェクトでAIを使いこなすだけでなく、他のプロジェクトも巻き込んでAI活用を推進してくれるメンバーを選出することで、組織全体への波及効果を狙っています。

主な活動内容

横断組織では、定期的な会議体を形成し、各プロジェクトでのAI活用のナレッジを共有しています。「このプロジェクトではこういう使い方をしている」「この課題にはこのアプローチが効果的だった」といった具体的な知見を持ち寄り、プロジェクト間で学び合い、組織の基盤として取り入れることを検討する場となっています。

また、各プロジェクトが抱える課題に対して、AI活用によるアプローチを検討する活動も行っています。異なるプロジェクトのメンバーが集まることで、多様な視点からの提案が生まれ、単独のプロジェクトでは思いつかなかった解決策が見つかることもあります。

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期待される効果

この横断組織は立ち上がったばかりですが、ナレッジ共有の加速と、各プロジェクトの課題解決に対するアプローチ提案の活性化を期待しています。プロジェクトを超えた知見の循環により、QualiArts全体でのAI活用レベルの底上げを目指していきます。

セキュリティの整備

AI活用を推進する上で、セキュリティ対策も重要な要素です。特に懸念されるのは、ドキュメントやソースコード中に平文で記載された秘匿情報をAIエージェントが読み取り、意図せず共有されてしまうリスクです。

こうしたリスクに対応するため、QualiArtsでは社内セキュリティを大きなミッションとするエンジニアを配置し、体系的な対策を進めています。パスワードなどの秘匿情報の管理形態を徹底したり、許可されていないツールやライブラリの利用を適切に管理したりと、安全なAI活用のための基盤の整備を進めています。

また、セキュリティ意識の啓蒙活動も重要な取り組みの一つです。AI技術の進化に伴い、新たなリスクも生まれてくるため、エンジニアが常に最新のセキュリティ知識を持って開発に取り組めるよう、継続的な情報提供を行っています。

成果と今後の展望

これまでの取り組みの成果

これらの取り組みを通じて、個人の活用に留まっていたAI活用のモチベーションが、少しずつエンジニア全体に波及するようになってきました。業務内容によってはなかなか個人でAI活用の糸口を見出しづらい場面でも、具体的な個人やプロジェクトのノウハウを共有し、それらを活用しやすい場を設けることで、個人のモチベーションが増加し、さらにノウハウが蓄積されるという良い循環のきっかけになっています。

現場のエンジニアからも、「普段はちょっとした質問をしたりするぐらいしか使えていなかったが、具体的な活用例やツールの機能を教えてもらえて、活用の幅が広がった」といった声を多くもらっています。組織的な取り組みが、個々のエンジニアの実践につながっていることを実感しています。

今後の課題と展望

一方で、ゲーム開発が大規模なコンテキストや広い技術領域、複雑な開発フローを抱えているため、AI活用が行き届いていない部分もまだ存在しています。横断組織での議論を活性化させ、より多様なユースケースを発掘していくことで、AI活用の幅をさらに広げていく必要があります。

QualiArtsでは引き続き、エンジニアが安心してAIを活用できる環境を整備し、組織全体での開発生産性の向上を目指していきます。

おわりに

今回は、QualiArtsにおけるエンジニアのAI活用推進について、4つの取り組みを紹介しました。

AI技術は急速に進化しており、組織としてどのように活用していくかは今後ますます重要になると考えています。QualiArtsでは引き続き、エンジニアが安心してAIを活用できる環境を整備し、開発の生産性向上と技術力の向上を目指していきます。

この記事が、AI活用を検討されている組織の皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。

著者

住田 直樹のプロフィール画像

(Sumida Naoki)

2018年にサイバーエージェントに新卒入社。その後、QualiArtsにて新規プロジェクトのUnityエンジニアとして開発に携わる。現在は、運用プロジェクトのUnityリードエンジニアとして従事。ゲーム・エンターテイメント事業部(SGE)全体のUnityの技術促進を目的とする横軸組織「Unityコミュニティ」の責任者としても活動している。

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